「痛っ…」
私が呟くと、柾輝は呆れた顔しながら「そんなもん履くからだろ」と私の足下を見つめた。
「足が痛いなんて言ってないじゃん」
「へーへー」
柾輝は適当な返事をしながら、しゃがみ込んで私の足を見る。
靴擦れで赤くなっていて、自分の足といえども痛々しかった。
「なんでこんな合わねえ靴履くんだよ」
「だって…」
だってお洒落したいじゃん、女の子だもん。
少しヒールの高い赤いパンプスを履いて、キラキラと光る夜の街を軽い足取りで歩く。
なんか素敵じゃない?
一歩一歩、進む度にカツカツと響くパンプスの音とかも、
私にはなんだか心地よいリズムに聞こえるのだ。
「だってじゃねえだろ」
そう言って立ち上がった柾輝の顔は本日2度目の呆れ顔だった。
そんなため息つくことないのに…。
「で?歩けんのか?」
「だーいじょぶ!もうすぐ家着くし」
にっこり笑って応えたつもりでも、痛みからか少し苦笑いになってしまった。
柾輝はそれを見逃してはくれなかった。
「…座れ」
そう言って近くにあるベンチを指差す柾輝に、私は黙ってった。
ズキンとする足の痛みが更に酷く痛く感じたから。
それに、柾輝はこういうとこ頑固だから反抗するだけ無駄。
「脱げ」
「はぁ!?」
突然の言葉に私は声をあげた。
柾輝はくくくと笑いを堪えながら私の頭にぽんっと手をのせて「靴だ馬鹿」と言った。
「わ、わかってるよ!」
私は慌てて柾輝に訴えた。
すぐに人を小馬鹿にして笑うのは柾輝の悪い癖だと思う。
「ちょっと待ってろ」
「あ、ちょ、何処行くの!?」
未だに笑いを堪えた柾輝は、そう言って私を置いて何処かへ行ってしまった。
「まさきー!」と叫んではみたものの、ヤツは振り返らずに夜の闇に消えて行った。
(柾輝黒いからな…周りの暗さと同化しちゃうんだ。)
置いてかれた空しさと心細さから、柾輝への憎まれ愚痴を思ってみる。
足の痛みは一向にひかない。(そんなすぐに治るわけないのだけれど)
どのくらい待っただろうか。長かったような短かったような。
冷たい冬の風が私の頬をなでる。
「こんな寒空の下に女の子ほっぽるとは何ごとじゃー!」
私が叫ぶとくくくと笑う柾輝の声が後ろから聞こえた。
「マサキ!どんだけ待たすつもりですねん!」
「なんだその似非関西人。直樹怒るぞ」
「直樹が怒っても怖くないもん」
フイっと顔を背ける。急に置いてかれたら、いくら私だって怒るよ。
許すまじ黒川柾輝!そう思いながらちらりと横目で見る。
柾輝はそんな私を気にもせず、私の足下にしゃがみこんだ。
「ほら」
そう言って柾輝は、絆創膏とホットココアと…
ヒールの低めの可愛らしい黒いパンプスを私の前に置いた。
何これ。そんな疑問を顔にする私に気付いた柾輝は「お前にはこっちのが似合う」と優しく笑う。
「ほら、履けよ」
「え、いいの?」
「俺に履けっていうのか?」
まさか。あんたが履いたら気持ち悪いよ。
そう思ったけど口にはしなかった。
その代わりに「ありがと!」と言って勢いよく柾輝に飛びつく。
流石飛葉中サッカー部。柾輝は少しもふらつきもせずに私を支えた。
柾輝に優しくされると、あたしって凄く幸せなんだろうな、なんて思ったりする。
優しさに溺れる
(そんな幸せの優しさに、いつまでも溺れていたい。)
−−− アトガキ −−−−−−−−−−−
さり気なく優しい柾輝が大好き!
2007.1.16 壬弥楜