はらりと。
美しく舞い降りては、溶けて消える儚き雪を。

ただただ、じっと、見つめていた。




時がまれば




誰もいない教室にぽつんと一人。寂しくも窓の外を眺めていた。 外は雪。今年は暖かいせいか、降ってもなかなか積もらないみたいだ。 こんなに寒いのに積もらないなんて、なんだか損した気分なのは私だけだろうか。 あ、でも積もったらサッカー出来なくなっちゃうか。

?」
「あ、柾輝」

自分しかいなかったはずの教室に、制服を着た幼馴染が立っていた。 制服ってことは部活が終わったってこと。

「帰宅部のくせにこんな時間まで何してんだよ」
「柾輝を待ってたの。もう帰れるんでしょ?一緒に帰っていい?」

私が聞くと、柾輝はふっと少し笑って「かまわねーよ」と言った。



廊下を二人並んで歩く。柾輝の横を歩くのは少し久しぶり。 横目でチラリと盗み見をした柾輝の横顔は、前よりも離れている気がした。

「柾輝、背ぇ伸びた?」
「そりゃ伸びるだろ」
「そう、だね」

変わってく。私が気付かない、知らない間にも。 何もかもいつかは変わってしまうモノばかり。 変わってほしくないモノだっていっぱいあるのに…。


「あの…」

突然の声に私たちは足を止めた。 下駄箱のところに立っている女の子。ふわふわの髪に、くりくりの目。 背は私より少し低めで…なんだかとっても女の子らしい。

「く、黒川くん…ちょっといい?」

可愛らしい女の子は顔をほてらせて柾輝の名を呼んだ。

「…私、先に帰るね」
「あ、おい!」

そう言って私は走った。柾輝が私を呼んでたけど、気付かないフリをした。 だって、とてもじゃないけど柾輝の方なんか振り向けなかった。




一人で歩く帰り道。寂しさからか何だか足取りが重い。 哀しいような、泣きたいような。なんともやるせない気持ちが私の胸を締め付ける。
あの子は柾輝に告白しようとしていた。それがわかったとき凄く不安になったけど、 もしも両思いなら祝ってあげようと思った。 柾輝に笑顔でおめでとうって言えたらいいな、って。
でも、私はそんなにいい子じゃなかった。 あの子が柾輝の名前を呼んだ瞬間、私はその子に嫌悪感を覚えたんだ。 そんなに愛しそうな声で柾輝の名前を呼ばないで。私から柾輝を奪わないでって。 歪んだ私の本音が溢れてしまいそうだった。本当は心の中まっ黒。どす黒い感情でいっぱいなんだ。 あんな知らない女の子と柾輝の幸せが願えないよ…。
涙がぱらぱら零れ落ちては私の視界をぼやけさせる。 いっそのこと私の汚い感情も全て、この涙と一緒に流れてしまえばいい。 そしたら、きっと、ちゃんと…柾輝の幸せを願えるのに。 でも、だめだ。どうしても柾輝だけは誰にも取られたくない。 だって生まれた時からずっと一緒にいて、私の記憶にはいつも柾輝がいるんだ。 大好きなの、ずっとずっと…幼馴染とかじゃなくて…そんなの関係なしで柾輝が好き。

!」
「ま、さき…」

柾輝が走って……あの子を置いて、私を追いかけて来てくれた。
そう思うと安心した。自分でも凄く嫌な女だと思う。

「泣いてんのか…?」

柾輝は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの無愛想な、 でもどことなく優しい顔に戻った。 「ほら帰るぞ」と言って私の手を引き、歩き出す。 それっきり何も喋らないのも、泣いている理由を聞かないのも、全部柾輝の優しさなんだよね。 そのさり気ない優しさに今まで何度助けられただろう。 いつかあなたがその優しさを他の子に向ける日が来るとしたら、私はどうすればいい?

「柾輝…」

私は柾輝の大きな手をぎゅっと握った。

置いて行かないで…離れて行かないでよ。 もう少しあなたの一番身近な女の子でいたいから。 例えそれが“幼馴染”と云う存在だとしても。
幼馴染なんてすぐに壊れてしまうような儚いモノだけど、 ここから抜け出したらどうなってしまうのかわからなくて… 臆病な私は、前にも進めない。


だから、黒く渦巻くこの想い。
まだ、あなたに伝えられずにいる。








−−− アトガキ −−−−−−−−−−−

柾輝はきっとさり気なく優しいんだよ。

2007.1.2   壬弥楜