今日は無性に機嫌が悪かった。
朝から妙に苛々して、全てに対してムカついてた。
授業を受ける気にもなんねぇから1限目から屋上でサボリ。
12月にしては寒くなかったし、寝るのには丁度いいくらいの気温だった。











「おーい。 お、は、よー」

いつの間に眠ってしまったのか。
よくわからないが、俺は知らない女の声で目が覚めた。

「あ、起きた」

ゆっくりと身体を起こすと、いきなり女が顔をのぞきこんできた。

「キミが黒川柾輝くん?」
「…なんだよ」
「やっと見つけた!」
「…用があんならさっさと言え」

別にあたしが用あるわけじゃないんだけどー。
女はそう言ってにっこり笑った。

「キミが授業サボるから、探して来いって先生に言われたの」

俺は気分が悪いといつも屋上に来る。 そんな俺を決まってクラスの学級委員がわざわざ探しに来て、 俺を見つけてはウダウダ文句を抜かしやがる。 うぜーと思いながら少し睨んだだけですぐ怯みやがって。 そんな奴の行動全てが俺をますます苛々させる。

「なんかねー遅刻した罰だって。酷くない?」

だけど今日俺を探しに来たのはそいつじゃなくて、クラスの変な女。 名前は忘れたけど どっちにしろ、寝ていたところを邪魔された俺は今とても気分が悪い。

「あたしさ、まだクラスメイトの名前と顔覚えてないんだよね。 だから探すの大変だったんだよ?」

俺はそいつの話を無視して再び寝転がった。

「あれ、また寝るのー?」

てめぇには関係ねぇだろ。 女が話かけてきても無視した。  が、それでもそいつは話かけてきた。

「ねー柾輝くーん」

「ねーってばー」

「おはよーございまーす」

「柾輝く「…んだようるせぇ」

俺は勢い欲起き上がりそいつを睨んだ。
イライラする。
早くどっかに消えてくれ。

「柾輝くん…顔こわい」
「は?」

そいつは驚いたように言った。
喧嘩売ってんのか? 怖いと思うなら早くどっか行けよ。

「ねぇ、いっつもここでサボってんのー?」
「だったら?」
「そろそろ雪降りそうだよね」
「………。」
「あ、今日の再放送録画してくんの忘れた!」

話も変わるが表情もコロコロ変わる。 忙しい奴。 そう思いながらポケットから煙草の箱を取り出して火をつけた。

「へー柾輝くんて煙草吸うんだ!?」
「…悪いかよ」
「未成年が煙草吸ってんの見んの初めてー!」

そう言って俺が煙草を吸うのをまじまじと眺めるそいつ。
笑えるほど変な奴。

「あっ!」

じっとこっちを見ていたそいつの顔は驚いた顔に変わった。

「柾輝くんの笑った顔初めてみた!」
「…お前が変すぎるからだろ」
「お前じゃないもん、だもーん。ちゃんと覚えてね!」

は嬉しそうに言った。

「どーだろ。俺、人の名前とかすぐ忘れるし」
「えぇー!?……あ!」

は思いついたように自分のポケットを探り始めた。 そしてポケットから何かを取り出すと、「手ぇー出して」と一言。 俺は不審に思いつつも黙って手を出した。 素直に従うなんてガラでもねぇけど。


しばらくして、そいつは「これでよしっ!」と満足気に言って俺の手を離した。

「じゃっ、忘れないでねー」

はニコニコしながら手を振り、屋上を去って行く。 屋上に一人残された俺は、自分の手の甲を見た。 黒い油性ペンでしっかりと“”と書いてある。

「だせぇー」

せめて手のひらに書けよ。手の甲じゃ隠しようがねぇ…

俺はまた地面に寝そべった。

と書いてある方の手を太陽にかざす。

本当、馬鹿な奴。

「…俺を連れ戻しに来たこと忘れてやんの」

馬鹿なあいつを思い出すと笑えてくる。




ほどよい暖かさの太陽の光の中、俺は瞼を閉じた。
少し楽しみに待つような気持ちで眠る。
あいつが俺を連れ戻しに来たことを忘れたのに気づき、
再び眠りについた俺を起こしに来た時のことを。











−−− アトガキ −−−−−−−−−−−

飛葉中にサッカー部が出来る前のお話。

2006.12.10    壬弥楜