透明な雨は、涙ではないんだ。




想いは




空は灰色でどんよりとしている。 今朝、天気予報で80%って言ってたし、いつ雨が降ってもおかしくはない。 雨が降り始める前に帰らなきゃ、そう思った。 傘は持ってきたけど、使い物にならなくなっていたからだ。 私は折れた傘を手に持っち、ゆっくりと歩き出した。

足がずきずきと痛む。 きっと突き飛ばされた時にでも捻ったんだろう。 私の身体はケガや傷ばかりだった。 足には痣が絶えないし、腕には切り傷、顔は殴られて赤くなってる。
私は、いわゆる "イジメ" にあっていた。 イジメが始まったのは、多分…半年くらい前。 私が跡部と付き合い始めてからだ。 女っていう生き物は地球上で一番怖い生き物なんじゃないか。 そんなことを思いながら、近くにあったゴミ捨て場に傘を投げ捨てる。 ボキボキに折れた傘などもう必要ない。

ぽつり、ぽつり

雨が降り出した。 最初は小降りだった雨も、だんだんと勢いを増している。 頭のてっぺんから足の先まで、全身ずぶ濡れだ。 それでもあたしはゆっくり歩いた。 ここまで濡れたんなら走る意味もないが、その前に足が痛くて走れない。

近くにあった公園のベンチに腰をおろした。 足は、思っていたより酷く痛む。 私は一つ大きなため息をついた。雨水が傷口にしみる。

「あれ?ちゃんじゃない。」

こいつの声は何度も聞いた覚えがある。 彼女は熱狂的な跡部ファン、私はこの人に何度殴られたか覚えていない。

「ねぇーちゃーん、折角人が呼んでんだからさぁー…返事くらいしたら!?」

ぐいっと思い切り腕をひっぱられて、地面に叩きつけられた。 制服に泥がはねる。 ぐいっと髪をひっぱられて、目の前に女の顔がきて、つり上がった目が私を見据える。 彼女の後ろにも2人、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
今日は3人か…いつもより少ないかな。いつもは、5,6人で殴りかかってくるからなぁ…。

「お前本当うぜーんだよ。」
「跡部様があなたを本気で相手にするとでも思ってるの?」
「調子乗ってんじゃねーぞ!!」

彼女がそう言った瞬間、頬に激痛が走った。

「――っ!!」

私は今まで何人もの跡部ファンに殴られたけど、こいつはやばかった。 手加減ってものを知らないんじゃないか、ってくらい思い切り殴る。
   
「何であんたが跡部様の…納得いかないわよ!!」

そう言って、ポケットからカッターを取り出した。

自分に刃が向けられているにも関わらず、
鋭く尖った刃先に雨の雫がぽつりと触れるのが恐ろしく、キレイだと思った。




****

「おい…お前、その髪どうした」

次の日跡部は私に会うと同時に、凄く険しい顔をした。

「ちょっと、切られちゃっただけよ。」
「切られただけじゃねーだろうがよ」
「いいの、切ろうか悩んでたし…丁度よかった」

跡部は更に険しく顔を歪めて、あたしを優しく抱きしめる。

イジメなんてのにはもう慣れた。
でも、跡部のいない日々には慣れていないのよ。
だから、どんなに傷つけられたって、跡部を失うことよりは怖くない。

私は、狂ってしまったのかもしれない。


crazy for...






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文字サイズを変えてみました。
どこかのマナーサイト(小説書きさんのマナーみたいな?)で、
文字サイズはできるだけ大きめにと書いてあったので。


2006.8.28    壬弥楜