お星様 お星様。

どうか私に奇跡を起こしてください。





流れが落ちたら






派手なイルミネーションに軽快な音楽。外はカップルばかりが歩いている。 街はすっかりクリスマスモードだ。 私はというと、駅前の洒落た喫茶店でカフェオレを飲んでいた。 一口飲む度に口の中で甘さと苦さが絡み合う。 どちらかというと苦味の方が強いかもしれない。
お店を見回すと来たときよりもお客が増えているようだった。 ウエーターは大変そうだ。 そんな軽いことを思いながら丁度厨房から出てきたウエーターに目をやる。
……驚いた。というより違う意味でドキリとした。
気まぐれに見たその人は私のよく知る人物。

――黒川柾輝

中学時代、私が好きだった人。 彼に告白をしようと試みたこともあった。 卒業式の日が最後のチャンスだったのだけれど、 結局は勇気が無かったために未遂に終わった。
高校生になってから初めて見かけた彼、あんまり変わってないみたい。 全然変わっていないという訳ではないが、ちょっと前よりも大人びてるかなぁという程度だ。




「柾輝くん?」

彼が私の座るテーブルの横を通ったときに、思い切って声をかけてみた。 他人の空似…とかだったらどうしようか。 ううん、そんなわけない。中学3年間ずっと彼に片思いしてきた私が間違うはずないのだから。 ていうか間違いだったらかなり恥ずかしい。

?」

ほら、やっぱり柾輝くんだ。
久々に憧れの人を前にしたからか、はたまた名前を呼ばれたことに対してなのか。 私の心臓はバクバクだ。

「何してるの?こんなとこで」
「バイト、見りゃわかんだろ?」

バイト……そりゃそうだ。 柾輝くんはここのウエーターの制服を着ているのだから。 緊張のあまり馬鹿なことを聞いてしまった。

「昨日からの3日間の超短期間だけどな。お前こそ一人でどうしたんだ?」
「私はねー友達待ってるの。彼氏のいない者どうし楽しくクリスマスを過ごそうってわけ」

寂しいでしょ?と苦笑すると、柾輝くんは笑った。 大人っぽくなったなぁとは思ったけど、笑顔はまだちょっとあどけなさが残ってるみたい。 久しぶりに見た彼の優しい笑顔。なんとなく恥ずかしくなって何か別の話題を探した。

「冬休み中に同窓会やるってね」
「あぁ、あれな。多分行けねぇと思う」
「え、なんで?」
「その日試合なんだわ」

柾輝くんこないんだ…また会えるかなって少し期待してたのに。 誰よ。同窓会の日にち決めたの(って怒ってもしょうがないのだけれど) でも、サッカー優先しちゃうなんて柾輝くんらしいかな。

「ま、同窓会じゃなくてもどっかで会えるだろ」
「そうだね」

カラン、コロン
金属のぶつかり合う音。それは私の奇跡に終わりを告げる音。

「あ。」
「友達か?」
「え、うん」
「そうか。じゃぁ俺仕事に戻るわ」

またな。そう言って柾輝くんは私に背を向けた。

「あ…ちょ、待って」

無意識に、それとも頭より先に身体が動いてしまったとでも言うべきか。
私の手は柾輝くんの服をしっかりと掴んでいた。

?」

あたしはこの後どうしたいんだろう。こんなにも不自然に柾輝くんを引き止めて。
あの卒業式の日に言えなかった言葉を今更言うつもりなのだろうか。
こんな公衆の面前で?



隕石でも落ちない限り、まともに告白する勇気すらないくせに。








−−− アトガキ −−−−−−−−−−−

柾輝が喫茶でバイトなんてありえないと思います。

2006.12.24   壬弥楜