嫌われてしまえば、諦められると思ったんだ。




狂気と正気の




夕焼けの濃いオレンジ色に世界が溶ける。
汗と砂の匂いの混じる部室の中で、俺はくつくつと笑った。

「真っ赤、リンゴみたい」
「な、違っ!」

違わない、だって本当に真っ赤だ。
俺がからかうと先輩は更に頬を赤く染めて俯いた。

「な、んで、キス…」

本当に気まずそうに呟く先輩に、俺は罪悪感を感じた。
でも、もう遅い。
戻れない、戻っちゃいけない。

「別に理由なんかないっすよ」

先輩は顔をゆっくりあげて俺を見つめた。
不思議なモノでも見るかのようにして、俺の言葉を待つ。

「幸せそうな先輩みてたら何かムカムカしたんす」

俺じゃない誰かとの幸せ。そんなもの踏みにじってしまいたい。
俺の物にならないなら、傷つけて、


壊してしまえばいい。




「ムカツクンだよ、あんた」




ほら、こう言えば。先輩の瞳からはキラキラと輝く雫が溢れる。
それさえも愛しく思う俺は、狂っているかもしれない。

「はは、そんなあたし…嫌われ、てたんだ…」

気が狂いそうなくらい愛しいのに、壊したいくらい大嫌い。

「気付かな、かった…ごめん。もう話し掛けたり、しないから…」





ああ、手に入らないモノほど

失うのは簡単なんだ。



「ごめ、なさ…!」

先輩は泣きながら部室を出て行った。走り去った後には彼女の匂いが微かに残る。






  傷つけた

  傷つけた

  傷つけた





「はは、」

乾いた笑しか出てこない。




「な、んで、キス…」




なんでって…なんだよ。それくらい気付いてよ。
好きだからに決まってんじゃン。










先輩なんて大嫌いだ。








−−− アトガキ −−−−−−−−−−−

何かもうごめんなさい。

2007.3.12  壬弥楜