「一馬のあほんだら!」

そう言って駆け出した彼女の後ろ姿がだんだん小さくなって行く。
俺はそれを追いかけることもなく、ただじっと見つめた。



「お前、馬鹿だな」
普通そこはさ、追いかけるべきだろ?

結人はそう言ったけど、追いかけられなかったんだから仕方ない。 あほんだらとまで言われるようなことをした覚えはないけど、 が怒ってるのは事実であって。 彼女がなぜ怒ってるのか、理由もわからない俺が追いかけたところで彼女の怒りは治まらないだろう。
だけど…3日も避けられれば結構堪えるわけで。 いくら考えても彼女が怒った原因は見つからないし、もうお手上げ状態だった。



「話し合ってみたら?」
でなきゃいつまでたっても解決しないよ。

英士はそう言うけど、俺は避けられてるんだぜ?どうやって話せっていうんだよ…。
色々考えてはみたけど、結局なにも解決しないまま5日たってしまった。 相変わらずは俺を見る度に気まずそうに目をそらすし、会話もできるわけないし、 勿論メールだってしていない。もうわけわかんねえし、なんだか俺も腹立ってきたわけで。 放課後に廊下で前を歩くを見つけたとき、思わず腕を掴んでしまった。

「なんで避けるんだよ」

いくら考えてもわからないから、とうとう聞いてしまった。
情けないな、俺。

「俺なにかしたか?」

は俺の問いかけに口をぎゅっと閉じて、顔を逸らす。
本当、わけわかんねー。
静寂の中じっと待つと、彼女はゆっくり口を開いた。


「だって一馬…もてるんだもん」


「……は?」

の口から紡がれた言葉は、なんとも予想外なものだった。
ぽかんとする俺をよそには続ける。

「クラスの子がね、真田くんて結構かっこいいよねって。 ほら、一馬ってサッカー上手いし?ヘタレだけど。」

ヘタレって…そう思ったけど口には出さなかった。
なんかが一生懸命になって話してたから、口挟んじゃ悪いと思ったし。

「それに比べて私ってなんかパッとしないし。 一馬に似合わない女なんじゃないかって思ったの。それで…そのうち一馬に愛想つかれて、 捨てられるんじゃないかと思ったら…
つい不安になって熱くなっちゃった!」
「……え、それって…ヤキモチ?」
「そうだよ、悪い!?」

言い切ったは少し涙ぐみながら俺を見上げた。

(う、わ…可愛い///)

俺はずっと掴んだままのの腕をそっと引いて、
彼女の唇にそっとキスを落とした。




ふ い う ち

( か、ずま‥! )
( ヘタレとか言うなよ )








−−− アトガキ −−−−−−−−−−−

ヘタレのくせに頑張った一馬くん

2007.4.21  壬弥楜