存在を知ったのは、ある朝の8時30分。
第一印象は、常識知らずな最低な奴!




雨の




冷たい空気が肌を刺す。 雨によって更に寒く感じる冬の朝。 冬はあまり好きじゃないが、雨はもっと嫌いだ。 濡れるし寒いし…冬に雨なんていいことない。 寝坊したけど、走る気にもなれなかった。 朝から雨だと思うとやる気もなくなる。

校門に着くと大きな水溜りができていた。
すぐ私の横を、後ろから来た奴が勢いよく駆けてゆく。

バシャバシャ

「ひゃっ!」

水溜りの中をためらうことなく走った、オカッパ頭のそいつ。
……馬鹿か?てめぇのせいて水が足に跳ねただろうが。

「ちょっと!濡れたんだけど」
「あ、わりー!」
「わりーじゃないわよ!」

私はそいつの肩を掴んだ。

「なんだよ?」
「あんたのせいでびしょ濡れ」

どうしてくれんの?と問うた瞬間。8時30分を告げるチャイムが鳴った。

「あ!てめ…っ!どうしてくれんだよ、遅刻だぞ!?」

ぎゃ…逆切れ!?うざいにも程があるわっ!

「男が遅刻ごときでガタガタ喚くんじゃないわよ」
「遅刻ごとき!?俺はそんなんじゃすまねーんだよ!」
「うっさいわねぇ、どう頑張ったって遅刻だったでしょ!」
「俺の足なら間に合ってた!クソクソっ!」

そう言ってそいつは地団駄した。

バシャリ

水が勢いよく跳ね上がった。

「…てめぇ」




****

苛々しながら乱暴に教室のドアを開ける。 もわもわとした嫌な暖かさに包まれた。 今週から暖房が入ったみたいだ。

「おはよー、めずらしく遅刻じゃーん」

どーしたの?とが話しかけてきた。

「寝坊したけど、雨だったから走る気なくした。」
、機嫌悪い?」
「わかる!?」
「いつもより険しいオーラっていうか…の周りの空気がピリピリと…」

そう言っては苦笑した。 険しいオーラって、どす黒いオーラってことかしら? てか、思い出しても腹立つわ。 あのオカッパ野郎。

「あ。、おはよう」

毎朝さわやかな笑顔で挨拶をくれるのは、長太郎。

「おはよー」

この笑顔で嫌な気分が多少癒されるから、長太郎は好きー。 好きって言っても、恋愛感情ではない。 あたしとと長太郎は、親友みたいなもんだから。

「次、調理実習だってよ?」
「げ、面倒…」

でろんと机に突っ伏す。 家庭科室に移動しなきゃなんないし、食器洗ったり、料理作ったり… 調理実習って本当に面倒だ。

「雨の日のはやる気なさすぎー」

ケラケラ笑って私の腕を引っ張る。 私は半ばと長太郎に無理やり連れられるようにして教室を出た。

「寒…」

廊下は思った以上に寒かった。教室の中が天国ならこっちは地獄だ。

「何作るんだっけ?」
、ちゃんと授業受けてる?」

長太郎が笑いながら問いかけてきた。 受けてるわけないじゃん、あんな面倒なだけの授業…。

角を曲がるとすぐに階段がある。 家庭科室へ行くにはこの階段をおりなきゃいけない。 それさえも面倒だ…。雨ってのはことごとく私のやる気を無くす。

「……ごめん、やっぱ家庭科サボルわ」
「え!?」
「3限目なんだっけ?」
「数学だけど…」
「じゃぁ、そん時戻ってくるから。んじゃねー」

こんだけやる気無いときは多少さぼって、次の授業に体力温存しなきゃ。 教室に戻って一眠りしよー。くるっと方向転換して進もうとした。

「何で俺が音楽室まで走らないかんのやろ…。 誰かさんが遅刻したせいでなぁ。」
「だからー!俺は頑張ったんだって!」

誰かがバタバタ走ってくる音。煩い奴等だなぁと思いつつ角を曲がった瞬間。


ドン


「うわっ!」

勢いよくぶつかって、ふわりと身体が宙に浮いた。


―――落ちる!


ダダダダンッ


階段の一番上から下まで一気に落ちた。衝撃は…あまりなかった。 誰かに抱きかかえられている。…こいつが守ってくれたのか…?

「わり…大丈夫か?」

大丈夫なわけないだろと思いつつも、助けてもらったのは確かだ。 お礼くらい言ったやろう。そう思ったのが間違いだった。

「ありが……………てめぇ朝の!!!」
「げっ!お前…っ!」

出たなオカッパ野郎!胸糞悪い面見せやがって。

「ざけんな、あんたのせいで足元びしょ濡れ気分は最低!」
「ちゃんと謝ったじゃねーか。てか、助けてやったんだから礼くらい言えよ。」
「はぁ!?」

ことごとく私に迷惑かけといて、ちょっと助けたから礼を言え?
冗談じゃないわ。

「元はと言えばえばあんたがぶつかって来たんじゃない。」

「やめや、やめ。お二人さんみっともないで」

そう言って私たちの間に入ってきた眼鏡の人。 みっともないなんて、貴様に言われたくないわ。 エロ声眼鏡野郎。

「最悪だわ。」

そう言って、早くこの場から去ろうと立ち上がった。


ズキン

「―っ!」

足に痛みが走った。
まずい…さっき階段で落ちたときに足捻ったんだ…

「捻挫やな。」

エロ眼鏡が言った。 何でわかるんだよ、医者でもないくせに…。

「まじ!?俺のせい…だよな」

岳人とか呼ばれたオカッパが呟いた。 当たりじゃボケ、あんた以外に誰がおんねん。

「侑士、榊さんに遅刻するって言っといて。」
「任せとき。」

そう言ってエロ眼鏡は走り去って行った。 残ったのは、岳人と私だけ。

「ほら、肩貸してやるよ。」
「……。」

このとき、私はすっご嫌な顔したんだろうな… 死んだほうがマシだってくらいな嫌な顔。 私の顔を見て岳人が「俺だって嫌だけど、しかたねーだろ」って言ったんだから。 しかたなく、岳人の肩に掴まって保健室に行った。




****

「げ!先生いねーし」

保健室のドアを開けると、誰もいなかった。 てゆーか学校の保健室で保健の先生を見たことないんだけど。 ちゃんと仕事してんのか?

「どーすっかな…」
「いいよ、湿布貼っときゃ治るって」

ケンケンで近くにあった椅子まで寄って、ゆっくり腰掛けた。

「そんな訳にはいかねーだろ?悪化したらどーすんだよ」

あら、責任感じて心配してくれてんの?なんか調子狂うんですけど…

「テーピングしときゃいいか。ほら、足出せよ」
「え、できんの?」
「運動部だとしょっちゅう怪我するから」
「あんた何部?」
「テニス。」
「あんたが!?あのみんなの憧れテニス部の?えーそれにしては性格悪ぅー」
「てか、この学校にいて俺らテニス部員しらねーのも珍しいな」
「何それ、自分有名って言いたいの?ナルシストって嫌ー」

笑いながら憎まれ口をたたく。

「うるせー、ほら出来たぜ」

足は綺麗にテーピングされていて、あんまり痛みを感じなくなった。

「へー、なかなか上手いじゃん。それよりいいの?音楽室行かなくて。」
「あぁ…またお前のせいでまた遅刻だし…。」

岳人は大きなため息をついた。

「音楽に遅刻って一大事だよな…今日何週走らさせられんだろ…」

あたしのせいじゃないわよ! さっきまでの私はそう言ってただろう。 でも今は、何かこいつに対する苛々もなくなってて。 私はケタケタ笑った。

「知らないわよ。私だってあんたのせいで怪我しちゃったんだけど。」
「だから悪かったって!」
「購買でジュース買ってきてくれたら許してあげるよ」

ニヤリと不適な笑みを浮かべれば、岳人は「クソクソ!」と言って悔しがった。 それが何だか、かなり笑えた。





窓の外は青空。 雨はとっくにやんでいて、代わりに空には綺麗な虹。
私は一番後ろの席でりんごジュースを飲みながら3限目の数学の授業を受けた。









−−− アトガキ −−−−−−−−−−−

久しく夢書きした…ごちゃごちゃ。

2006.11.23    壬弥楜